私と彼と彼

大切にされた物には魂が宿るなんて言いますが、私もその様な物の1つです。私は私の持ち主の誕生日にプレゼントされました。
持ち主の名前はレオナルドと言います。彼は私を使って何枚も妹さんの写真を撮るのです。
「私を撮っても仕方ないでしょ」
その言葉にレオ君は笑ってシャッターを切るのです。

ある日を境に全く私に触れて来なくなりました。彼の目には私よりも高性能なカメラのレンズが埋まっていました。

彼がまた私に触れた時には緑豊かな土地ではなく、騒々しい異形の都市の中でした。彼がどれほど大事に扱っていても傷が増えるのは止められませんでした
私は傷よりも、日に日にシャッターを切る機会が減ることの方が不満でした。彼は良い写真を取るのです。万人ウケする華やかさはありませんが、響く人には響く素晴らしい写真です。
彼の写真には温もりがあるのです。しかし本人に伝える口は私にはありません。残念な事です。

ピッピッピッと触られている感触に目を覚ましました。
レオ君かと思いましたが、彼はソファで寝こけています。私は一体誰が勝手に触っているのか慌てました。
パシャリ。
私の脳内には疲れきって寝こけたレオ君が写し出されました。鼻歌交じりにコードを繋がれ、その写真は出力されました。
犯人は彼の上司でした。
他にもこれまでの写真の幾つかを出力すると彼は満足そうにプリントされたそれらを懐にしまい込んだのです。
レオ君の寝姿を手早くデリートすると、彼は何食わぬ顔で鞄の中に私を戻したのでした。手早い犯行です。
それから何度か同じ犯行が繰り返されました。彼は決まってレオ君を撮ります。
その意味が分からないほど私は疎くはありません。なにより彼の撮る写真は愛に溢れていました。
こそこそと泥棒の様な真似事をせずに堂々と撮ればいいものを、と常々思っていましたが口には出せません。私はただ見ているだけしか出来ないのですから。

触れる感触に目を覚まします。またあの上司かと思えばレオ君でした。
お久しぶりでございます!嗚呼今日は何を撮るのでしょうか!私は胸をときめかせながら彼がシャッターを切る瞬間を待ちました。写されたのは珍しく無精髭が生えたままのだらしないかの上司でした。
レオ君はそれから何枚か撮って消去のボタンを行ったり来たり。結局小さく唸りながらボタンから手を外しました。彼の顔はリンゴの様に紅く染まっている。
私はピンと来ました。なんということでしょう!
ニヤける様なむず痒さ。分かるでしょう?
彼も同じなのです。当人達は知らぬでしょう。ですが、私は二人の答えを知っているのです。

きっとまたあの上司は私をこっそりと鞄から取り出しレオ君の写真を撮ろうとするはずです。
そして見つけるでしょう。見つけて、レオ君を起こして、それからきっと。

私は二人が並んだ1枚が何時撮られるのか、楽しみでしょうがないのです。

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