こんな事を話せば、きっと頭がおかしいと思われるかもしれない。でもスティーブンさんには聞いて欲しくて。違います!別れるとかそんな話じゃないです!ただ僕は確かめたいんです。
昔からなんですが、僕にだけ声が聞こえる事がよくあったんです。それは男性の声でした。ちょっとハスキーで女子ウケが良さそうな声です。
声が聞こえるのは危険を知らせる時が主でした。
「そこを動くな」と聞こえた瞬間目の前に植木鉢が落ちてきたり、信号を無視した車が突っ込んできたりと幾度となく助けて貰っていたんです。
ミシェーラが木から落ちそうになった時もそうでした。あの時の声が無ければ今頃彼女の足は歩けなくなっていたかもしれません。
家族は声の正体を父方の祖父だろうと言っていました。若くして亡くなられたそうです。だからきっと見守ってくれているんだと言い聞かせて、僕もそう思っていました。声が守ってくれる度に心の中で感謝していました。声に従う様生きていました。
15の時です。親しい友達が居て、その子は快活でちょっとだけ気の強い子でした。僕は彼女の事が密かに好きで…彼女も同じだったんです。「友達のままじゃ嫌だわ」とあの子は照れながらそう言いました。僕は嬉しくて、自分も同じだと返事をしようとして、出てきた言葉は「ごめん。君をそういう風には見れない」と真逆の事を話していたんです。違います。僕の意思で喋ったんじゃない。勝手に口が動いたんです。彼女はショックを受けた顔で走っていって…追いかけようとしました。でも声が「追いかけるな」と聞こえたんです。僕はそれを無視して追いかけて、さっきの言葉は違うと言うつもりでした。でも口は僕の意志とは反していました。追い討ちのように聞こえた声は「彼女は君に相応しくない」なんて酷い言葉を…はい。今は少し疎遠になってしまいましたが彼女は友達のままです。
それから勝手に意思と反して口が動く時が何度もありました。声も何処そこへ行け。誰々とはもう会うな。と指示する様が目立つようになったんです。その頃には声の正体は祖父ではないと確信していました。正直な所不信感を持っていたんです。ただ変わらず危険があれば声は知らせてくれましたし、従っていれば悪い事は何一つ起きませんでした。
…今まで黙ってたんですが、スティーブンさんが告白してくれた時、本当は断ろうと思ったんです。同性なのは第一だし、全くそういった目で見たことはなくて。ごめんなさい。今は好きです。その気持ちは本物です。
だからあの時イエスと応えたのは僕じゃ無かった。何度も断りを入れようとしたんです。でも勝手に僕の口は動いて拒絶の言葉を吐かせようとはしませんでした。
貴方の事を想えるようになって、好きだと自覚してからは1度もあの声は聞こえていません。口が勝手に動くことも無くなりました。僕はそれが不思議でした。
僕、貴方の声が好きです。急に何をと思わないで欲しい。好きです。落ち着いたハスキーなトーンで、優しくて、耳に馴染んで、まるでずっと前から聞いた事があるみたいに。
スティーブンさん、教えてくれませんか。

どうしてあの声と貴方の声は同じなのか、僕はそれを確かめたい。

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