アリババ←白龍/現パロ

思い出せない

最近は丁度いい季節で暖かくて涼しくてそんな日にはやっぱり散歩だよなぁとブラブラ歩いていたら後ろから名前を叫ばれた。
後ろを振り返れば有名な進学校の制服を着た少年が俺に突進して来ていた。アリババどのおおおお!なんてこの時代に殿とは、時代錯誤も甚だしい少年の突進を軽くかわす。道にべしゃあっと顔面ダイブを決めた少年にさすがにヤベェなと焦るが少年はそんな事は気にならなかったらしい。即座に立ち上がれば汚れた制服などに目もくれず俺の両手を掴んだ。

「ずっと…!ずっと探しておりました!アリババ殿!」

あーもうコイツもかとため息をつきながらどちらさんですか?とかったるく呟いた。少年はショックを受けたように膝から崩れ落ちた。デジャヴ。


爆笑しながら俺の話を聞くアラジンにテーブルの下で蹴りを入れると痛いよぉと批判が飛んだ。俺も心が痛いよぉ。精神的ダメージだ。
「あいつといい、お前らといい本当なんなんだよマジで」
「あははは、でも白龍お兄さんと会ったなら芋づる式でまだまだ会えるかもねぇ」
「ゲッ。まだ変人共がのさばってんのかこの街は」
やんなるわーもう別の街に引っ越そうかなーなんてテーブルに突っ伏しながらブーたれればアラジンが慌てて止めに入る。
そもそも春からこの街に引っ越してからおかしな事ばかりだ。チラリとアラジンの顔を見る。

たまたま近所のスーパーで買い物してた時に後ろからアリババくううううん!とタックルを決めてきたのがアラジンだった。見知らぬガキにタックルを決められ買い物カゴの中の食材は宙を舞った。何すんだよクソガキと怒鳴ろうとしたところ更にタックルが追加された。今度は女の子だった。アリババさああああん!と叫ばれた勢いに乗ったまま腹パンを決められた。めっちゃ痛かった。泣いた。
お前らなんなんだよー!?としくしく泣く俺に覚えてないのかい?と聞かれ、初対面で覚えるも何もあるかと悪態を付いたところで少年少女はみるみる間に膝から崩れ落ちてわんわん泣き出した。高校生と中学生と小学生が並んで泣く様は異様だったろう。おかげさまで恥ずかしさからあのスーパーにはもう行っていない。遠回りで買い物をするハメになっているのは今でも悔やまれる。
しかもそれだけでは終わらなかった。少年少女の保護者らしき銀髪と紫の長い髪をした人達がバタバタと向かってきたかと思えば俺の顔を見た途端に一時停止。うるうると目に涙を溜めたかと思えばアリババ君!と大人2人分の追加タックルに俺は切れた。
「あんたらもかあああああああ!!」
冷凍サンマの入ったパックで人を殴ったのは初めてだった。

もう!何なんだよここの街はさぁっ!俺の顔見る度タックル決める風習でもあんのかよ!?
街ぐるみで何かドッキリ仕掛けようとしてんの?そうなの?!と喚くとアラジンにドンマイと頭を撫でられた。やめろ、威厳が無くなるだろ。
「だってねぇ、何十回生まれ変わっても今までアリババ君だけが会えてなかったんだよ?そりゃあ皆嬉しいさ!」
「うわ出たよ意味わからん宗教説!」
違うよぉ宗教じゃないよぉとアラジンにベシベシ頭を叩かれる。別に痛くないので放置。
アリババ君にも記憶があればねぇ。ため息混じりに呟かれる。しゅーきょーじゃねぇかと反論。生まれ変わりとか怪しすぎんだろ。
「まぁ僕はアリババ君と今世を楽しくやれればそれでいいんだけどね」
小学生の口から「今世」などと言う単語を聞こうとは。起き上がるとメニュー表を取ってパフェを追加した。アラジンに至ってはハンバーグも食べたいなぁとがっつり飯。既に端に避けてある皿の山は見ない事にした。
でもアリババ君、カシムお兄さんとは僕らより前に会ってたんでしょ?会うも何も幼馴染みだし。おかしいなぁーお兄さんも記憶はある筈なんだけど?

カシムまで新興宗教の魔の手に染まろうとしていたのか。恐ろしや。
だが考えてみればカシムの俺に対する扱いが変わった時期があった。その時のカシムは言わば不良真っ盛りで、盗んだバイクで走り出す以上のことをやらかしては俺は酷く悲しかったもんだ。俺の知らないガラの悪い奴らとつるみ始めて何故だかそれが怖かった。遠くへ行ってしまいそうな、そんな気がしたのだ。
それがある日だ。夜中、ひっさびさに帰ってきたカシムは会話もすること無くさっさとソファで寝ちまって俺はとんでもなく居心地が悪かった。俺の家なのに、理不尽だ。
朝になったらどう声をかけようか、朝飯作ったら食ってくれるだろうかなんてうんうん唸ってたら俺の唸り声と重なってもう一つ唸り声が聞こえた。ソファを見ればカシムもうんうん唸ってた。なんか悪い夢でも見てんのかなぁなんて起こしてやるかどうか迷いながら顔をのぞき込んだ瞬間にパチリと目覚めやがってガッと腕を掴まれたわけでそりゃもうビビりましたとも!ビビりましたとも!
んぎゃわあああと叫ぶ俺の動揺をものともせずに「思い出した」とだけ言ってまた寝やがった。えーちょっとアリババ意味わかんないんですけどー?と1人わたわたしたもんだ。
そ、れ、が、だ!
なんと翌朝からカシムは悪い奴らと手を切り不良から足を洗い真っ当な人間に大変身し挙句にちょっと俺に対して優しくなったのだ!なんて素晴らしい事だろうかと俺はふんふん頷きながらパフェを食った。アラジンはハンバーグ第二陣を食らおうとしていた。デブるぞ。


そういう訳なんだよな、ごめんなー。そいじゃ。
ひらひら手を振って立ち去ろうとしたらガックンとつんのめった。腕、離してくんない?と言えば少年は泣きそうになりながらも首を縦には振らなかった。
人目が気になって仕方なくファストフード店に入る。白龍の奢りでいーい?聞けば嬉しそうに頷いたので遠慮なく注文する事にした。どうせなら期間限定シェイクも頼んじゃえ。
バクバクポテトとハンバーガーを貪る俺におずおずと尋ねてくる。記憶、無いんですか?本当に。
「ないって言ってんじゃん。お前もあいつらもほんっとオカルトだなぁ」
ポテト完食。指先に付いた油をペロリと舐めとると何故か白龍が顔を背けた。意地汚いってか?
そう…ですか。落ち込んだ声になんでこっちが罪悪感持たなきゃいけねーんだと膨れっ面になる。こんなやり取りをもう何度も繰り返してる。みんなで俺をからかってるのか、マジなのかは分からないけどいい気はしない。
「大体さぁ、俺が記憶を持ってたとしてだ。それでどうする気だよ白龍くん」
「いや、それは…」
「じゃあ良いじゃん。何も問題ないじゃん」
この文明開化の時代を堪能しましょーよ。普通に友達が増えるのならば嬉しい。飲みかけのシェイクをうりうり押し付けるとやめてくださいと真面目に返された。

良くは、無いです。
シェイクを押し返されてつまんねーなと飲み直すとぼそりと呟かれた。ん?と返すと再度繰り返し言われる。良く、ないんですよ。

「それってどういう意味?」
「忘れて欲しくなかったんですよ、やっと、やっとアリババ殿とまた出会えて、だから今度こそ間違えないように、そうしようって。貴方も覚えているならきっともう繰り返さないから、今度こそ俺は貴方を…!」
やっ、ちょっと何分かんない。何で急にヒートアップしてるの白龍君落ち着こうよ、ね?
両手で白龍の頬をむぎゅっと挟んだ。落ち着け落ち着け。白龍はハッとしてすみませんと縮こまった。
「なんか良くわかんねーけど考え過ぎは駄目だぞ」
「そうですね、本当。すみません」
「よろしい」
にへらぁとカシム曰く阿呆っぽいと言われる笑みを浮かべる。俺としては爽やかに笑っているつもりだが何故だかへらりとだらしなくなるのだ。しかしアラジンにはナイス笑顔!流石僕のアリババ君!とお褒めの言葉を頂いているので改める努力はやめた。
白龍はぼうっとしていた。なんだ、見惚れたか。どやぁ。
「おっ…俺、今度こそ…!」
ガタリと白龍が席を立つ。周りの客が不思議そうにこちらの席へ視線を向けるのが分かった。やめて見ないで恥ずかしい。
白龍君は出会った当初のようにガシリと俺の両手を掴んだ。
「今度こそアリババ殿を幸せにして見せます!俺と結婚して下さい!」
リンゴーンと背後で鐘が鳴った気がするがまぁ良い。鐘がなろうがライスシャワーが降り注ごうが返事は一つだ。
「お断りします」
白龍は膝から崩れ落ちた。デジャヴ、と思った。

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