カシアリ←ジャーファル

こわがり

「君の事が好きです」
「無理です」

ジャーファルさんに告白された。振った。
彼は酷く傷ついた顔をしていたけど、それはそれは可哀想にと同情したくなる表情だったけれど断った。同情で付き合うのも可哀想じゃないか。
それに俺はもう恋愛なんて無理だと思った。口では彼女が欲しいだの愛が足りませんだのなんだのかんだのやんや言ってたけど無理だと思った。
立ち直ったと思い込んでたけど全然で、結局俺は死ぬまでカシムを引きずって生きて行くんだと思った。
最初で最後はあいつでいいよ。他は無理、容量いっぱい入らない。
「嫌です。絶対に君を諦めませんから」
涙声であの人がそう告げた。俺はため息を吐いた。それからすぐに今後の対ジャーファルさん作戦を考えた。
申し訳ないが冷たくあしらうのがベストだと議長の俺が答えた。満場一致で賛成のようだ良かった。

「アリババ君今日も可愛らしいですね好きです」
「はーパパゴラスの丸焼きおいしーですー」
「今日は君の為に南海生物を仕留めてみたんですよ君の為に」
「はやくアモンが移るように修行頑張んないとな」
「今日はね、君に花を贈ろうと思って。この花の花言葉知ってますか?君を死ぬまで愛すって意味なんですよ」
「わぁモルジアナに似合いそうな花!ありがとうございますさようなら!」
「ねぇアリババ君好きです愛してますねぇねぇアリババ君」
「今日の晩飯はどんな料理かなーあっアラジン一緒に食堂行こうぜー」

めげない折れない諦めない。
案外しつこい人だなと思った。そもそも俺の何が好きだと言うんだこの人は。俺の良心もそろそろ冷たくするのがしんどいと悲鳴をあげた。
待ってて、どうせそのうち気の迷いだったと諦めるはずだから。もう少しの辛抱だよ。

ああすみませんその果実を一つ。はい、ありがとうございます。ほらアリババ君どうぞ。どうも。美味しいですか?自分で食べたらわかるんじゃないでしょうか?それもそうですね頂きます。シャクシャクシャク。美味しいですね。はい、美味しいです。 俺はジャーファルさんの愛してる攻撃から逃げ休息の為に市街地に降りたのに、何で居るんだこの人は。
手持ち沙汰の俺は齧りかけのうすピンクの果実を両手でころころ転がした。ちらりと横を見ればジャーファルさんがにこにこと笑っていたので顔を背けて果実にがぶりと齧りついた。シャクリ、甘い汁がはじけた。
どうにかしてこの人を撒けないかと早足で狭く入り組んだ道を選んで進む。
がやがやと賑わう音が離れて行く。ふと後ろを振り向けば誰もいなかった。うまく撒けたようだ。はーと息を吐いて歩き出す。
南国の国だけあって日がサンサンと照っていて暑かったけどカラリとしたそれは気持ちがいい。潮っぽいバルバッドとはやはり違う。
機嫌良くふんふん鼻歌を歌って狭い路地を抜けると思わず芯だけになった果実を目の前の人物に投げつけそうになった。
「奇遇ですね愛の力ですねアリババ君好きです」
「ストーカーだ!変態だ!撒けたと思ったのに!」
やっぱり、故意に早足だったんですか。傷心顔のジャーファルさんには申し訳ないけど先回りはちょっと気持ち悪いと思った。
並んで歩きながら愚痴をこぼす。さっさと俺なんて飽きて別の人にした方が良いと思いますよ。馬鹿言わないで下さい君以外なんてお断りです。
「そんな事言ったって俺は絶対あなたを受け入れませんよ。時間の無駄だと思います」
「まだまだ先があるんですから希望持ってもいいじゃないですか」
これは個人の自由なんです。人を愛する権利は誰にも侵害する事は出来ないんですから。
人差し指をびしっと立ててわざと偉そうに言うジャーファルさんにそりゃそうですねと薄く笑った。ジャーファルさんは俺の顔を見て嬉しそうにしていた。首を傾げる。
だって君、私に冷たいからなかなか笑ってくれないじゃないですか。前はあんなに可愛らしく笑顔を振りまいてくれたのに。それはジャーファルさんが告白してくるのがいけなかったんですよ。親愛までならオッケーですけどそれ以上は駄目です。
「なんでそんなに拒むの」
「俺にはもう恋愛なんて無理ですからね」
「気の持ちようだと思いますよ。そんなのは」
そんなのはで片付けられるほど俺とカシムの繋がりはぺらくないんだよ。あなたに何がわかるもんか。

ぶちり、ぷちり
少々カチンと来た俺はそっぽを向いた、ら、視線の先のある事に気付いて咄嗟に駆け出す。後ろでジャーファルが何か叫んだけど走り出した足は止められないし止めちゃいけない。
だって俺の予測道り高く積み上げられた積み荷の紐は千切れて崩れ出した。真下には妊婦さん。さぁもうすべき事はわかるでしょう。なんたって俺はこの国の食客だ。お役に立ちましょうってもんよ。
突き飛ばした妊婦さんは近くに居た男性が受け止めてくれた。あとは俺が真の秘めた力を使ってこの場所から安全地帯に瞬間移動するだけ。なんて無理、そんな力は魔法使いじゃないと出来ません。
ガンと鈍い音がした。ぐわんぐわんと頭が揺らぐ。ガンガンガン。追加されたみたい。あと凄く痛いし周りの人達の叫び声と、ジャーファルさんの こ え が



死んだあとの世界があるとすれば例えばこんなところなんだろう。
何処を見回しても真っ白で、無音で、カシムがいて。は?カシム?
目の前に普通にカシムが居た。バチーンと両ほほを叩くと痛くなかった。あ、夢なんだ、じゃあ覚めないで。
「カシム!カシム!カシム!」
とりあえず抱きついてめっちゃ頬擦りした。
あとめっちゃチューの雨振らせてやったしめっちゃぎゅーって抱きしめた。カシムは心底うざそうにしてたけど俺を剥がしはしなかった。
ひとしきりくっついて、くっついて、くっついて、俺が言いたい事をマシンガントークでしゃべり終わったところでようやく落ち着いた。
「お前相変わらずだな」
「なんだよカシムだって」
ぶーぶー文句を垂れると髪をわしゃわしゃされた。嬉しくてふふふふと笑ってしまう。きもいぞお前となじられた。
「お前さぁ」
「うん?」
「別に俺の事無かった事にしていいからな」
なんだそれ。
「無かった事って?え?何だそれ何言ってんだよ俺はカシムが一番最初で最後の好きな人でそれは絶対で他の奴なんて無理で」
「だからそういうのいいから」
「よくねぇよ!」
「なんでよくねぇんだよ。俺が良いっていってんだから良いんだよ」
「俺はカシム以外なんて無理!だ!」
「案外いけるって、なんかほら、今お前に言いよってる奴いるじゃん。あいつとか」
なんでそこでジャーファルさんが出てくるんだ、カシムの馬鹿、大バカ。
「だってお前俺の事引きずりすぎなんだよ」
やめろよ。
「俺はお前の枷になる気はねぇんだから」
やめろって。
「大丈夫だよ。気に食わねぇけどあいつは大丈夫だ。俺が保証してやっから意地はってんじゃねぇよ」
意地なんて。
「お前頑固だからさ、けど大丈夫だ。安心しろ」
俺別に頑固じゃねーし。
「そいつは勝手にお前を置いて行ったりしねぇからもう帰れ」
帰るって何処にだよ。

「じゃねーと間に合わなくなるぞ。馬鹿」



瞼を開ければジャーファルさんの顔面が大洪水起こしててめっちゃビビった。
ジャーファルさんは俺が起きたのに気付くと抱きしめて来た。よかったって何度も言ってて心配させてしまったんだと落ち込んだ。
しかし、君は馬鹿ですかとか後先考えないから云云かんぬんお説教が始まった瞬間もうちょっと寝たふりしてても良かったなと思った。
後から分かったけど俺割と生死の境を彷徨っていたらしい。人間の体の作りはもろいなぁって思う。神様はもっと丈夫に人を作るべきだったんだ。
「ジャーファルさんジャーファルさん」
「何ですか」
ジャーファルさんはまだ涙声だし目元には涙の跡があった。
「俺、怖かったんですよね。また好きになってもカシムのときみたいに亡くしたら今度こそもう立ち上がれないなって」
「私はしぶといし利口ですから、老衰じゃない限りは死にませんよ」
「そうなんですか」
「あとアリババ君と想いが通じるまでは死ねません」
「本当ですか?」
「本当です。君の事を愛してるんです。本物の気持ちなんです」
「じゃあやっぱり無理です」
ジャーファルさんは顔をくしゃりと歪めた。この人は本当に俺の事が好きなんだなって今になって初めてそう感じた。

「だって想いが通じたらジャーファルさん死んじゃうかもしれないでしょう?だったら無理です」

前言撤回します君と愛し合わないと苦しくて死んじゃいますと泣きながら前言撤回された。
それじゃあ愛し合うしかないですねと俺は笑って返した。

inserted by FC2 system