アリババ←ジャーファル

きらきらと

黄色の子供はがっしゃんと机を蹴りあげた。
青い子供は青くなったと思ったら真っ赤な顔になった。
赤い子供はお前の腸を引きずり出して噛みちぎってやるとでも言いたげな恐ろしい表情になった。
周りの人間はひたすらに青い顔をしていた。

愉快痛快だ。

その連絡が入ってきたのはもう間もなく煌帝国に着くといった頃だった。
彼女のルフの瞳とやらは大層便利な道具で我が城内の様子がよく分かる。がっしゃーんどかんがらがらがら。城が崩壊して行く様が良くわかる。泣きそうだ。
彼女は慌てること無く淡々とジャーファルさんが子供たちがと事細かに実況してくれるが正直耳を塞ぎたい目を瞑りたい。
ぱりーん。今割った酒瓶高かったんだぞ帰ったら呑もうと楽しみにしてたんだぞ。え?何今死ねソバカス野郎と叫んだのはアリババ君?あのアリババ君?!出会ったのは最近だが誰よりも命を尊ぶ子だと痛いほど感じたあの子が死ねってお前何言ったの何また煽ってるの嗚呼モルジアナやめなさい壁に穴を開けるのは止めてくれアラジン魔法はずるいそれはずるいヤムライハ喜ぶ所じゃないだろう今すぐ帰ってことを納めたいが煌帝国に着いてしまった俺はジャーファルがアリババ君を沈めた映像を最後に通信を切った。会談後にまた繋げなければいけないだろう。ホウレンソウは大事だから。水晶には泣きそうな男前の顔が映っていた。


「さぁジャーファル君お話をしようじゃないか」
ふってくされた顔してやがるがお前、お前が悪いからな。大まかな話は聞いているがどう考えたってお前が悪いのは明確だがこういうのはちゃんと本人の口から聞かなければならない。そういうものだろう?
本人は自分は悪くないと主張しているが周りは全会一致でジャーファルが悪いと言う。俺もそう思う。しかもお前はあの時あの国に居たのだから尚更それを言うべきでは無かったはずだ。
しかし今回は俺も反省すべき点があるかもしれない。ジャーファルを彼らに付けるように命令を出したのは俺だ。ちゃんと理由もある。
確かにアリババ君とジャーファルの第一印象はお互い最悪だろう。しかし、しかしだ。それを含めたとしても大丈夫だと思える確信があったのだ。

ジャーファルは酷く綺麗なものを好んだ。

何言ってんだとか言われそうだがまぁ待ちたまえ、彼の幼少期はそれはそれは荒れたもので今でもその片鱗は残るが落ち着いているのは確かでよく頑張ったなぁ偉いなぁと思う話が逸れたなすまない。
とにかく陰惨とした幼少期を送っていた彼はその反動とでも言うのであろうか酷く綺麗なものを好んだ。モノ、人、景色、志、関係なく綺麗なものを好んだのだ。宝石を瞳に映せばうっとりと何時間も見つずけるし美しい人を見れば華やかですねぇと喜んだ。彼は綺麗なものを見るのが好きなのだ。欲しいとまでは言わない、または言えないあたりでは保護者としてもっと俺が頑張らなければと思うがそんな彼だからこそ子供達に付けようと思ったのだ。
幼い彼らはその幼さ故にきらきらと眩しい輝きがありそれはジャーファルの好む綺麗なものに当てはまると思った。
特に当事者の片方の一人でもあるアリババ君なんてジャーファルの好みにジャストだと思ったのだ。見事な金髪金目の彼は物語に出てくるような王子様そのものの見目であったし、彼が女性であればやはり物語に出てくるようなお姫様そのものだったろう。
だからこそ大事に大事に世話をして我が国に依存させいや何、何でもないよ。
であるからして乱闘の切っ掛けとなったジャーファルが彼に放った一言は予想外だったのだ。

「死んだ人間なんかの事でいつまでもうじうじと」

ジャーファルよ、それは駄目だろうと水晶に向かってため息を吐いた。
「彼はアリババ君の家族同然だったんだぞ?そりゃあ長らく落ち込むだろう、それをお前」
「彼らだっていつまでも後ろ向きでいる訳にはいかないでしょう」
「最終的にはな、だが心を癒す時間は必要だろ。何抉ってんだお前」
「それは…」
もごもごと言いよどむ部下に多少なりとも罪悪感はあったのねと感じつつ追及。そこまで彼が嫌いだったか。
「しかし、」
「しかしが何だ流石に言い過ぎだ。そんなにアリババ君が嫌いなのか」
「いいえいいえ、そんな事はこれっぽっちも」
「じゃあ何で」
だって彼私を見ないんですよ。死んだ人間にばかり心を砕いて。無いものにきらきらとした宝石を分け与えてだったら私にくれたって良いじゃないですか嗚呼思い出しても腹が立つ。ですがほら、今日は私のことを見てくれたでしょう?あの子感情できらきらと色が変わるんですよ綺麗でしたよだからやっぱりあの子の瞳は死者なんかじゃなく私に向けられるべきでそれが正解だったんですからねぇ私何も責められる筋合いは無いでしょう?私が正しいでしょう?

「…ジャーファル君」
「何でしょうかシン様」
「言いたいことは色々あるけれど俺はどこで子育てを間違えたんだろうな」
「はぁ…?」
初めて欲しいと思った心の成長に喜べばいいのか、それが歪んだ形である事に嘆けばいいのか全くどうして育児書にこんな事は書いてなかったのに。
「とにかく彼らに謝りなさい。理由は理解出来てなくてもいいから」
「嫌ですよ。そしたらまた私を見てくれなるじゃないですか」
「命令」

舌打ちすんなコラ。

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