僕の埋葬

最初に墓を掘ったのは9歳の時だ。
前線に出ていた両親が亡くなったと知らされて、庭に子供一人入れる大きさの墓を掘った。
僕が穴を指差すと彼は泣きながら入って行った。そして埋めた。
泣き虫のスティーブンはその日に死んだ。

次に墓を掘ったのは牙狩りの前線に立つようになった頃。
チームのムードメーカーを殺さねばならなかった。彼とは冗談を交し、飲み比べなんて馬鹿をやった仲だった。しかし彼は既に人からは逸脱してしまった。引き金を引いて、部隊に戻って墓を掘った。大人一人分が入れる大きさの墓。
僕が指差す前に「仕方ないさ」と肩を竦めて自ら入って行った。その日から切り捨てる事を覚えた。
それから墓を掘ったのはつい最近の事だ。
神々の義眼を持つ少年が入って来た。遠巻きに眺めて居ただけのはずが、気が付けば恋に落ちていた。僕はまた墓を掘ることにした。

こいつは随分と抵抗してくれた。泥と傷だらけになってようやく埋めることが出来た。これでレオナルドに恋したスティーブンは死ぬはずだ。なのに翌日には墓をひっくり返して出てきていた。
このスティーブンは本当に、本当にムカつく奴で、毎回埋めてもすぐ出てきては勝手に少年をランチやディナー、挙句デートにまで誘う始末。ろくな事にならんぞと墓を指さしても舌を出して逃げるのだ。
「時々スティーブンさんって二重人格じゃないかと思う時があります」
早速やりたい放題の奴の弊害が出て来たではないか。
僕は無言で煮え滾るトマトソースを眺めていた。パスタの生地をこねがら少年は続ける。
「パーソナルスペースめっちゃ狭いな!って日もあれば野良猫みたいに全然近寄らなくなったり、今日みたいに無理やり家に来るよう誘っておいていざ来ると神妙な顔で黙りっぱなしとか」
トマトソースは地獄の釜の如くごぽごぽと音を立てている。
「それで変な人だなぁって色々考えるようになって、とりあえずスティーブンさんがどういう人なのかよく見てみようって。ソースそろそろ火止めた方が良くないっすか?」
横からニュっと手が伸びてコンロの火を止める。
「よく見て見た結果、いつもはバッチリ決めてるくせに家ではちょっと抜けてる普通の人なんだなと。あと僕が怒るとしょんぼりした顔になったりするでしょ?そういうとこ好きだな愛おしいなって思った訳なんですけど」
「あっつ!?」
「ちょっと何やってんすか!?フライパン離して!水、水!」
呆然と立ち竦んでいると流しっぱなしの水道に手を突っ込まされた。
ジリジリと痛む手よりも彼がさっき言った言葉の方が気になって仕方ない。言葉が頭の中をぐるぐると旋回する。
「レオ、レオナルド」
「何すか」
「好きだ」
「知ってます」

どう考えても最悪のシュチュエーション、だけど頭の中ではファンファーレが鳴り響く。
今朝墓を這い出てきた男はもう埋められずに済むと機嫌良く目の前の少年を抱き寄せた。

追伸。
子供の僕も、年若い僕も墓を蹴飛ばして出て来やがった。
アイツらすぐに少年に泣きついたり愚痴愚痴と仕事の不満を喚き出したりやりたい放題だ。少年も少年で甘やかして止める気が一切無い。僕の取り分が減る。どうにかしてくれよ。

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