ジャファアリ/ジュダアリ/現パロ/NTR

別れます

やってしまった終わりだもう戻れないああもう最悪だ!
今の自分の所持品といえばジャケットのポッケにあるうすーい財布一つでそれこそレベル1の勇者といったところだ。赤い顔をぶんぶんと振って落ち着けと心中繰り返す。追ってこないのが尚更ムカつく。そんな事でムカつく俺自身にはもっとムカついた。
息を吐くと白く濁って恋人の顔を思い出した。
何となく薄々いつかは事切れるだろうと予感はあったけどなあんで今日なんだよよりにもよって聖夜とかクリスマスとか恋人達の日とかイルミネーションが忌まわしくてしょうがない。

端的にいえばジャーファルさんと喧嘩した。
予想で言えば今回こそはもう別れる。と、思う。
最初は俺だって大丈夫だと思っていたのだ。ジャーファルさんが忙しい人だというのは十分に理解していたし仕方ないことだって分かってた。
クリスマスだって誕生日だって一年目は一人で寂しかったけどアフターケアもしっかりしていたので愛が勝つと余裕綽々だった。二年目はバイトを入れて誤魔化した。三年目は友人達と祝った。楽しかった、寂しくなかった。でもその時に言った紅玉の言葉にギクリとした。

「それでも寂しいって思えるのが恋人よねぇ」

周りは少女漫画の読みすぎだと彼女を馬鹿にしていたが俺は笑いながら冷や汗をかいていた。
恋人なのに、ジャーファルさんが居なくても全く寂しくなかったのだ。それこそが問題だったのだ。
遠距離恋愛なんて無理よと言っていた女子達に今なら賛同する。俺がもちっと大人だったら良かったかもしれないけどもう我慢ならないから。寂しいなんて通り越してイライラに変わってしまったのなら終わりは見えてて、それでもこうして涙が出てくるのは愛してたからなのだと思う。
足元の石を蹴りながらカシムの家にでも転がり込もうと思ったがやめた。クリスマスにホモの嘆きなんぞ聞きたくはなかろう。
財布の中身は千円と200円ちょっと。ネカフェに避難するには足りない。頭の中を3周程ランニングして足先を方向転換した。


「ジューダルくーんあっそびっましょっ!」
「恋人はどうしたよ」
ダイレクトで痛いところをついてくるあたり流石サークルでも空気読めない奴ナンバーワンに輝くだけあるな。だから逆に今はこいつの方がいい。
「匿って」
ジュダルはしばし考えた後、アリババを入れることにした。この寒さの中締め出すのも可哀想と良心が意見したのだ。

ぺっぺと上着を脱ぎ散らかして遠慮なく冷蔵庫を漁るあたり図太い奴だと思う。こいつとは気は合うが仲良しこよしというわけでは無かった。恐らくこいつの一番の親友はカシムだろうし遊ぶにしたって大勢で2人だけなんてことも無く何故家に来たかと問えば消去法と言われる。
消去法。家族、恋人がいない家に押しかけても何ら問題ないクリぼっち。腹立つ。ケツを蹴ると痛いと非難の声が聞こえるが追い出すぞと脅せばすみませーんと声が帰ってくる。
「恋人のなんだっけ、ジャ、ジャ、ジャガーさん?「ジャーファルさん!」はどうしたよ、初めての今年は一緒に居れるとか何とか騒いでたろ」
「喧嘩しました。恐らく別れます」
「ふぅん」
ハッピークリスマスとわざと言えばアンハッピークリスマスと睨まれる。
いつ帰るのか聞けば首を振る。帰れないから匿って。なるほど、それは別に良いとして携帯やら教材の入った鞄やら置いてきた貴重品はどうすんだと聞けば今気づいたのかげんなりとした表情でどうしようと呟く。合鍵も置いてきたと、流石阿呆ババくん。
着信音、通話。
別れますなんて言っていたが恋人にその気は無いんじゃねーの。
アリババくんに携帯を指さしてまたアリババくんを指さす。でんわ、おまえに、場所、どうする?
バツ印を指先で作ったのを確認すると電話口のチビに来てねーよと返答。通話を切る。
「ジャーファルさんがお前探してんぞ。チビ達も使って」
「でも俺は帰んないから」
即答するあたり、大人しく帰って仲直りでもするのかと思ったが決意は固いらしい。
とりあえず飯でも食うかと尋ねれば頷く。俺も手伝うよ。当たり前だろ居候。ニヤリと笑うとアリババくんも情けない表情で笑う。別に1人増えようが俺のでかい家に支障は無いんだぜ。うん。だから今日から家事はアリババくんの仕事な。うん。ケーキあるぞ。まじか!現金じゃん。

ひと月が経つと流石に生活の一部になった。
俺への着信音も増えた。そろそろチビを迷惑電話に登録しなければなるまい。
「いい加減に帰れとか言わないよなぁジュダルはさ」
「アリババくんが言い出したんだろ。匿って偉大なるジュダルさまぁって」
「なんか脚色されてねぇ?それ」
コーヒーを一気に飲んでどかりとソファに座る。投げ出した足の先には黄色い頭。踵でぐりぐり踏み付けると肩にして、肩!と図々しく喚いた。
「アリババくんよぉ、お前は帰んないの」
「帰って欲しいの?」
「別に」
「じゃあ帰らない」
それよりみかん食べたい。みかんねぇのみかん。
んなもんねぇよお前はレモンでも齧ってろ。何でレモン?共食い。色が。だったらオムライスがいいなぁふわふわのやつ!
くるりと反転したアリババくんが足に抱きつく。いや作んねぇし。
「これってさ」
「なに」
「浮気に当てはまんのかな」
足に抱きつく力が強くなる。俺も少しは思った。一方的なさよならはカウント外だったりするらしいし。
「アリババくんは俺が好きなわけ?」
「友達としてだいすき」
「なら問題ないだろ」
「じゃあいっか」
にこにこ顔でオムライスコールを再開させたアリババくんにデコピンをかます。短い悲鳴に満足。
「寂しがり屋のアリババくんはさぁ浮気するなら次はずっとそばにいてくれる奴にすりゃいいぜ」
「それじゃジュダルじゃん」
俺は首を傾げた。確かに、俺だな。
じゃあ浮気する時は俺にしとけと言えばアリババくんは神妙な顔で頷いた。
相変わらずあいつを返せと着信音はうるさかった。

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