ラビアレ←神田/死ネタ/現パロ

死亡予告

「神田にだけは教えて上げますね。僕が死んだら犯人はラビですよ」

ざくりと何ホール目かのタルトに突き刺さるフォークを見つめた。
相も変わらず幼馴染の、家族の胃袋は異常だ。
「俺に探偵にでもなれってか」
「違いますよ、先週からラビと喧嘩してて」
「だから殺されるとでも言いたいのかおめぇは」
心底呆れた!といった表情で目の前の奴は首を振った。
そんな訳ないでしょう。喧嘩くらいならどうせその内ラビが折れますよ。僕が言ってるのはそのずっと先の事ですよ。あと彼に殺される分にはなんの問題もありませんから安心して下さいね。にこにこと笑いながらまたざくりとフォークを突き立てた。タルトは残り4ピースを残している。
紆余曲折を経て随分幼い頃から同じ屋根の下暮らしているが未だに掴めない、浮世離れした様な奴だと思う。
だから突然こんな話を振られても不思議とおかしくは思わないのは全てこいつの地に足がついてない雰囲気のせいなのだろう。生きる事に執着がないとも。それを酷く腹立たしいと思っているのは神田だけの秘密なのだが。
「何で俺に言うんだよ」
「喧嘩したって言ったでしょ。本当はね、二人だけの秘密にしてあげようかと思ったけどむかついたから三人の秘密にしようかと。まぁ腹いせですね!」
「あいつが殺すって言ったのか」
「まだ言ってないけど時間の問題かなぁ。最近目がヤバいですよ。本当、たまに僕の首凝視してますもん」

学校の近くにね、もうすぐお菓子屋さんがオープンするんだって。せめてそこのお菓子を全種類食べるまでは待って欲しいけど。

俺はへらへらとした赤髪の幼馴染を思い出すが奴がこいつを殺すなんてのは想像出来なかった。むしろアレンの方が気まぐれを起こしてラビを殺す方が納得出来るほど。ふらふらと地に足をつけないアレンを必死にたぐり寄せて抱きとめるのがラビだ。彼らが付き合い始めたのを知った時は意外だと思った。ラビがでれでれとアレンにへばりついていたのは想定内だが、それを愛おしそうに笑ってされるがままになっているアレンに意外だと思ったのだった。目に見えて愛されるのを拒絶するのが常だったのだから。こいつが幸せならそれでもいいと胸の内の何かを諦めたのはいつだったか。
「だからね、神田に言っておこうって」
「そうか」
「リナリーも大切だから出来れば言えたらいいけど、リナリーだから」
「そうだな」
彼女は怒るだろう。そのくらいなら別れろとも言いそうだ。
そんな彼女を想像したのはアレンも同じようで柔らかい笑みを浮かべていた。お姉さんかお母さんみたいだと幼い頃に言われた言葉を彼女は未だに遂行している。いっそ役目だとも思っているのかもしれない。
ならば自分の役目は一体何なのだろうか。
タルトはいつの間にか残り1ピースになっていた。
「だからその時はよろしくお願いしますね」
突き出された一口サイズのタルトは交渉条件の為の賄賂らしい。
甘いものは好きではないのだが仕方ないとアレンの手を引き寄せて食べた。ラビが見たら発狂ものだろうが知ったこっちゃ無かった。


訃報が届いたのは丁度クリスマスの買出しに出掛けようとした時だった。
うるさく鳴り響く電話を無視してコートに財布を突っ込んだ。クリスマスケーキを作っていたリナリーが代わりに出る。悲鳴が聞こえたのは数秒後だった。リナリーがよく食べる弟の為にと作ったケーキは無駄になってしまったのだろう。ならば買出しにも行く必要は無くなったとも言える。どうせなら明日にしておけば良かったものを何かとクリスマスに縁のある奴なんだろう。

師走の忙しさにも関わらず葬儀には大勢の知り合いが来ていた。
ほとんどの人間が泣きはらした目をしていた。お前は気付きもしねぇだろうが愛されてたんだよ、馬鹿な奴。
死因は絞殺だと警官が言っていた。部屋は荒らされていた様で、恋人の帰りを待っている間に運悪く強盗でも入って来たのだろうと考えられた。ただ、指紋も、皮膚も、髪一つ物的証拠が見つかってはいないようだった。当たり前だ。
ラビは埋葬後もずっと墓の前に俯いて立っていた。
悲し過ぎて涙もでないのね。誰かが言った。周りの人間は気を使って一人、また一人とその場を去った。
俺は立ち去ろうとはしなかった。まだあいつとの約束が残っている。
「おい」
「なんさ」
後ろ姿だけならば確かに愛する恋人を無くした悲劇の男なのだろう。
だが俯く顔の下は笑っていると確信していた。知っているからこそ、そう確信出来た。
「こいつを殺したのはお前だろ」
「・・・驚いた。ユウは一番気付かないと思ってたけど、意外さね?何で気付いた?」
「言われたからだよ」
「は?」
俯いてた赤髪が振り返る。
俺は真新しい墓を睨みつけた。どうせどっかでニヤニヤ笑いながら聞いてんだろ。お前は。
「その墓の下に埋まってる馬鹿に」
「アレンが?」
「お前決意するよりずっと前にな」
唖然とした顔に笑う。全部てめぇのもんになったとでも思ってたんだろ。
「残念だったな。特別なのはお前だけじゃねーよ」
歪められた表情を一瞥してた。これで満足か。


細く白い首に手を掛ける。あれんあれんごめんもう駄目さもう無理ごめんごめんな。しょうがないなぁいいよラビになら。ごめん、ごめんなありがとうあれん愛してる愛してるから。うん分かってる。両腕に力を入れる。嗚呼でもその前に一つ。
「サプライズプレゼント、用意したからちゃんと受け取って下さいね?」
分かったとまったくもって分かっていない顔でラビが頷いた。
もう僕の首にしか目がいってない。駄目、ちゃんと僕を見て、よし。これで準備万端。
「おやすみラビ」
「おやすみあれん愛してるさ」
鈍い音がした。

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